セリフを言う度に泣きそうになった作品は初めてでした

ここ最近、坂口さんがどんどんマッチョ化している気がするのですが。

去年から今年にかけてアクション系の作品に携わっていたので、筋トレと格闘技をずっとやっていました。ブラジリアン柔術、レスリング、シュートボクシング。ロシアの武術のシステマまで勉強していて、僕は何を目指しているのだろうと思ったり(笑)。 そんなバリバリのアクションをやったかと思ったら、次は気弱な青年を演じて。つきすぎた筋肉を少し落として痩せたりと、体型の調整はいろいろとしていました。

それだけやっていたら、体つきも変わります! 気弱な青年といえば、映画『余命10年』では、ごく普通の男性を演じていますね。

普通の芝居がとても難しかったです。例えば、殺人鬼などリアリティのない役柄のほうが、経験がないからこそ演じやすかったりするんです。 でも、今回は和人という引きこもりの青年が茉莉という女性に出会ったことで変わっていく姿を決してドラマティックではなく、日常の延長として演じていく。 監督からは「和人と茉莉の生活をのぞき見するような感覚で僕は撮るから」と言われて、普通であることを意識して演じるのは、とても頭を使いました。

だからこそ、リアルに感じました。“このシーンで泣いてください”という感じではなく、観ている人が、それぞれに響くシーンが散りばめられるというか。

観てくれた方それぞれがさまざまなシーンで琴線に触れてくれたら嬉しいです。 隣で起きていそうな“隣人感”が出たらいいなと思って演じていたので。

余命を知っている茉莉は恋をしてはいけないと、和人からの愛情を何度も断りますが、それでもめげない和人を見て、人はあそこまで人を愛せるのかと思いました。

和人は茉莉に出会う前、生きる希望を無くして自ら人生を終えようとしていますが、茉莉と出会って救ってもらったのが大きいのだと思います。愛しい人でもあるし、命の恩人でもある。 劇中に「死にたいと思っていた僕に、生きたいと思わせてくれた茉莉ちゃんのために僕は生きる」というセリフがあるのですが、これがすべてだなと。 撮影中でも、このセリフを言うたびに泣きそうになっていました。 普段、ここまで感情移入することはないのですが、僕にとってもすごく琴線に触れた作品です。

友だちと一緒に美味しいものを食べながらお酒を飲むのが一番好きな時間

去年から今年にかけて、演じる幅がすごく広がっているなと感じますが、役柄の切り替えは大変ではないですか?

僕、切り替えは早いんですよ。演じた役を引きずるということもないですし。衣装を着て、セットの中に入って、共演者の方が目の前にいたら自然と切り替えができるので。 プライベートと仕事はしっかり分けるタイプです。

プライベートを大切にされているんですね。どんな過ごし方を?

と、言ったものの、趣味もないですし。1日休みがあったら、大体、自宅で明日の仕事の準備をしていたらもう終わり…みたいな感じです。 よく「プライベートで趣味や挑戦していることはありますか?」と聞かれるんですが、仕事で格闘技をやったりアクションをやったり、馬に乗るなら乗馬をやったりと、いろいろと挑戦しているので、プライベートはゆっくりしようかなと思うんですよね。

確かに、俳優の仕事は役によって挑戦ばかりですもんね。 素朴な疑問ですが、坂口さんが仕事以外で楽しいと思うときは?

僕、モノをすぐに無くしてしまうので高価なアイテムは買えないし、そもそも物欲もないので買い物にも興味がなくて。 そうなると一番楽しいのは食事の時間なんですよね。基本的に夕食ではお酒を飲むので、お酒に合う料理を食べています。 最近だと砂肝のコンフィとかイイダコのなんちゃらとか銀杏とか…って完全につまみばかりですね。 いまはなかなか難しいですが、友だちを家に呼んでお酒を飲みながらワイワイしゃべるのが大好きで。 この時間が一番楽しいですね。

坂口さんとお話していると、周りの人を巻き込みながら人の輪を作るのが上手な方だなと思うんですよね。人見知りとかまったくしなさそう…。

人を巻き込みながら輪を作っていくのは好きです。 そのほうが楽しいですし、仕事でも巻き込んでいったほうが良いものが作れるので、自分にとっても相手にとっても作品にとってもいいじゃん!とすごくシンプルに考えています。 だから、おっしゃる通り、人見知りをしないタイプだと思っていたのですが…。 この間、共演した(小松)菜奈ちゃんが僕のことを「すごく人見知り」と言っていて、「うそだぁ!」とそのときは言ったんですけど、藤井(道人)監督からも「人見知りを隠している人見知り」と言われまして。だから人見知りなのかも…(笑)。 でも、どの現場でもよく言われるのは「周りが見えすぎ」って。

納得! 坂口さんは周りをよく見ていると感じます。 仕事だけでなく、女性の変化にも細やかに気付きそう。

気付くほうだと思います。 でも、たまに「ヘアカラー変えた?」と聞いて「変えてないです」と言われることもありますが(笑)。

あるあるですね(笑)。好きな女性のヘアスタイルってありますか?

ちょっとマニアックなんですけど、ヘアスタイルそのものよりも、女性がヘアスタイルを変えてきた日が好きで。 髪を切ったり、ヘアスタイルを変えるって、気持ちも変わるし女性にとって大事に思っていることのような気がしていて。 だから、そんな日に「ヘアスタイル変えたよー!」なんて自分からは言えないけれど、昨日とは違う自分を見てほしい…と心の中で思っている女性のかわいらしさが好きです。

プロフィール

1991年7月11日、東京都出身。2014年俳優デビュー。 2017年『64-ロクヨン- 前編/後編』で第40回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。 近作に映画『仮面病棟』『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』。連続テレビ小説『おかえりモネ』、ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』などがある。 現在『WOWOWオリジナルドラマ ヒル』に出演中。

お知らせ

©2022映画「余命10年」製作委員会

映画『余命10年』が全国公開中。 数万人に1人という不治の病を抱え余命10年と知った茉莉(小松菜奈)は恋を諦めた20歳。 しかし、同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い、急接近するが、自らの病を隠し続けてしまう。 2人が最後に選んだ道とは。

坂口健太郎さんの更に詳しいインタビューは、2022年4月号の『HOT PEPPER』 にも掲載されています。街頭ラック等でGETしてね!

構成/石倉沙織(本誌) 取材・文/中屋麻依子 撮影/新田桂一(ota office) スタイリング/寿村太一 ヘアメイク/廣瀬瑠美